長岡花火旅①|東京から車で、渋滞と事故を越えてたどり着いた右岸ベンチ席

2025年9月4日

■ 東京出発、夏の長距離ドライブが始まる

8月3日、夏の日曜日。まだ陽が高くなる前に東京を出発した。目的はただひとつ、日本三大花火のひとつ「長岡まつり大花火大会」。夜には信濃川両岸が光と音の洪水に包まれる。その一瞬を目に焼き付けるために、数か月前から予定を立て、駐車場を予約し、ベンチマス席も確保していた。

東京から長岡までは、高速道路を使えば通常であれば約4時間の道のり。だが、この日ばかりは「4時間」という数字を素直に信じてはいけない。毎年恒例となっている大渋滞が待ち構えているからだ。出発前から渋滞情報アプリの画面には、真っ赤な帯がずらりと並んでいた。それでも「待つ時間も旅の一部」と言い聞かせ、車のトランクに飲み物や軽食を詰め込み、エンジンを回した。

首都高を抜け、関越自動車道に入ると、予想どおり車の流れは鈍くなった。車列の中に組み込まれると、もう逃げ場はない。アクセルを踏んでも進まず、数メートル動いたかと思えばすぐに停止。ラジオからは「長岡の花火に向かう皆さん、くれぐれも安全運転で」とアナウンスが流れ、同じ目的地を持つ人々がこの道に何万人も詰まっていることを改めて実感した。

■ 関越トンネルで起きた想定外

渋滞に耐えながら少しずつ進むうちに、関越トンネルに差し掛かる。全長11キロを超える長大トンネルは、いつもなら「ここを抜ければ新潟だ」という合図のような存在だが、この日は事情が違った。突然の事故により通行規制が入り、車列は完全に停止した。

30分ほど経過してもほとんど動かない。無線からは「下道に逃げる車もあります」という情報が流れ、隣の車が分岐へと抜けていくのが見えた。だが、私たちはあえて待機を選んだ。地図を見れば確かに下道はある。だが、事故処理が終われば再び流れは戻る。慌ててルートを変えても余計に時間を浪費するかもしれない。そう判断し、ただエンジンを切って待つ。窓を少し開け、山の湿った空気を吸い込みながら、車内で飲み物を口にする。

30分ほどで復旧のアナウンスが流れたときの安堵感は、花火を見る前の小さな祝福のようだった。再び車列が動き出し、トンネルの暗闇へと吸い込まれていく。ヘッドライトの列がゆっくりと進み、トンネルを抜けた瞬間、目の前に広がる夏空と山並みは、ひときわ鮮やかに見えた。

■ 予定4時間が6時間に

事故と渋滞を合わせると、結果的に東京から長岡までにかかった時間は6時間。予定より2時間以上遅れていたが、それでも「たどり着いた」という事実に胸が高鳴った。長岡市内に近づくと、意外にも道はスムース。主要なルートを避け、事前に調べていた市街地の裏道を選んだことが功を奏した。信号の間隔もほどよく、流れに乗って進むうちに「まだ間に合う」という実感が確かなものになっていく。

市内に入ると、祭りに向かう人々の姿が増えてきた。浴衣姿の若者、子どもの手を引く家族連れ、そして大きなバッグを抱えた人々。皆が同じ方向を向いて歩いている。車窓から眺めるその光景に、「いよいよ来たのだ」という感慨が押し寄せた。

■ 1万円の予約駐車場、その価値

今回確保していたのは、公式サイトで予約した駐車場。料金は1万円。最初に金額を見たときは正直「高い」と感じた。しかし、現地でその価値はすぐにわかった。予約制なので確実に停められる安心感。しかも会場に近く、帰り道もスムースに出られる位置。長時間の渋滞を経てようやく到着した身体には、この「確実に停められる場所がある」という事実が何よりありがたかった。

駐車場の入口には係員が立ち、スムースに誘導してくれる。前もって登録していたナンバーを確認し、すぐに入場。ほとんど待つことなく車を停めることができた。エンジンを切り、シートに深く腰を預けると、ようやく全身から力が抜けた。窓の外には、続々と車が入ってくる。予約していない車は受け付けられず、Uターンしていく様子も見える。もし予約していなければ、この時点で心が折れていたかもしれない。

■ 会場までの道、夕暮れの空気

車を降りると、夕暮れの空気が肌を撫でた。太陽は西の山に沈みかけ、空は茜から群青へと色を変えていく。駐車場から会場までは歩いて数十分。途中、出店の屋台や、椅子を持参して歩く人々の列に出会う。どの顔にも少し疲れと、それを上回る期待が混じっている。

歩道には交通規制の案内板が立てられ、係員が「右岸はこちらです」と誘導していた。流れに従って歩を進めると、やがて信濃川の川風が頬に当たり、花火会場特有の広がりを持つ空間に入ったことが分かる。川岸に近づくにつれ、空気の密度が変わり、ざわめきが耳を包み込む。

■ 右岸ベンチマス席に腰を下ろす

今回用意していたのは「右岸ベンチマス席」。川沿いに設けられた観覧席で、ベンチ形式になっているため座り心地がよく、地面に座る自由席よりも快適だ。案内スタッフにチケットを見せて席に向かうと、すでに多くの観客が腰を下ろし、思い思いに飲み物や食べ物を手にしていた。

ベンチに腰を下ろすと、背中に夕風が当たり、じわじわと体温が落ち着いていく。川の向こう岸には同じようにびっしりと人が並び、遠くに灯る街の明かりが夜の訪れを告げていた。長い渋滞とトラブルを越えてたどり着いた先に広がるのは、非日常の入り口。空が暗くなるにつれ、観客のざわめきは次第に静まり、視線が一点に集まっていく。あと少しで、今年の長岡花火が始まる。